私の大学院での研究テーマは,『痛みと脳』についての関係でした。私は,整形外科に勤務している関係上,痛みを訴える患者と接する機会が非常に多く,痛みの感じ方に個人差があることを不思議に感じていました。「同じ障害部位でも,全く痛くない人もいれば,日常生活が困難になるほど痛がる人もいる,この差は何だ??」そんな臨床的疑問が,私の研究テーマの出発点でした。大学院に入学し,痛みの研究論文を片っぱしから読みあさり,痛みの個人差には,過去の痛み経験,性差,痛みの感作,情動系の神経回路,不安や恐怖などの心理的背景などが影響していると理解したとき,今までの臨床的疑問が,徐々に理解できるようになり嬉しく思いました。さらに,修士研究で,痛みを強く知覚する人は前頭前野の活動も高くなる可能性を示せたことは,私にとって大変貴重な経験となりました。その論文は,「日本物理療法学会会誌」に掲載される予定です。大城先生をはじめ,理学療法開発学の皆様には研究にご協力いただき誠にありがとうございました。この場を借りて,改めて御礼申し上げます。
大学院で学んだ知識や経験は,私の大きな財産となっていますが,卒業後の私のテーマは,その財産をどう臨床研究へ結びつけるかです。臨床研究では治療効果の検討が多くなされていますが,実際の臨床では理学療法士の技術や心のあり方,患者の状態によって,治療効果が全く違ってきます。岡田(2011)は,理学療法という形があるのではなく,現実は担当する理学療法士が,創造的かつ整理された思考を以て,患者と共に創りあげるものであるとしています。私はこの言葉に共感して,原点に立ち返り,一症例を深く考えることを心がけるようになりました。私は研究で示された結果が,どの程度効果があるのかを自分なりに再検討し,その成功・失敗体験を積み重ね,私なりの理学療法を開発していく必要があると考えています。知識を自分の経験に落とし込んでこそ,本当の理解や新たな疑問が生まれるのではないでしょうか。実際,大学院で学んだ論文レビューや統計学の知識を駆使して,症例検討すると今までにないほど多くの新しい気づきが得られます。その新しい気づきから出発し,理学療法のサイエンスに貢献できるように努力していきたいと思います。臨床現場に携わりながら,症例をまとめたり,研究したりすることは決して楽ではありませんが,皆様も自分の立ち位置で,世のため,人のために貢献できる理学療法士を目指していきましょう。
最後に,『奇跡の脳-脳科学者の脳が壊れたとき-』著:J.B.テイラーより,「未来の自分のためなら,今の自分を棄てる覚悟がある」。お勧めの本です。ご一読を!
引用文献: 岡田 亨;理学療法28(1).2011.pp6-10.
喜納 将克 (2011年3月 博士前期課程修了)
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